童話屋

蔵原伸二郎という詩人をご存知でしょうか?
過去には、中学校の国語教科書にも載っていた詩人です。

昭和39年度の読売文学賞受賞直後に亡くなってしまいましたが、萩原朔太郎から「この詩人の誕生は日本の詩壇にとって驚異である」と激賞され、棟方志功とも親交がありました。
原始からつづく人間の実在の意味を問いつづけ、それを日本の自然風景の中に写すように描いて、日本の近代詩の世界に独自の芸術世界を築きあげた詩人です。
江藤惇は「詩人は蕭条(しょうじょう)たる枯野に立って、その老いて尖った肩に孤独をみなぎらせ、ふたたびあらわれることのない幻影の"ふるさと"を遠望している」と賞賛しました。

現代日本の読者がしばらく忘却の彼方へ押しやっていた蔵原伸次郎を、このたび日本在住のアメリカ人詩人W・I・エリオットとその朋友・西原克政が見つけだし英訳におよび、バイリンガルの詩集として刊行するに至りました。


きつね
狐は知っている
この日当たりのいい枯野に
自分が一人しかいないのを
それ故に自分が野原の一部分であり
全体であるのを
風になることも 枯草になることも
そうしてひとすじの光にさえなることも
狐いろした枯野の中で
まるで あるかないかの
影のような存在であることも知っている
まるで風のように走ることも 光よりも早く
 走ることもしっている
それ故に じぶんの姿は誰れにも見えない
 のだと思っている
見えないものが 考えながら走っている
考えだけが走っている
いつのまにか枯野に昼の月が出ていた

A Fox
A fox knows,
on this sunny desolate field,
that it is all alone.
Therefore, it also knows:
it is a part of the field
and the whole of it as well;
it could be wind or withered grass,
and then a beam of light
on this fox-colored desolate field;
it is a shadowy existence, as if all or nothing.
It knows it runs like the wind
and that it runs faster than light.
So it believes
it is no longer seeable.
The invisible is running while thinking.
Only the thought is running. Before it knows it,
the daytime moon rises above the desolate field.


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