童話屋

東京は浅草の生まれ。生粋の江戸っ子の辻征夫さんは、その詩の内容にも書き方にも江戸っ子の気風があふれています。

―宵越しの金は持たない気風のよさとは紙一重の痩せ我慢、本気と遊び心がないまぜになる可笑しさ、といった質の高い笑いと悲しみで読者を酔わせているうちに、作者は足音をしのばせて階段をおりていき、はにかみながら、ほんとうのことを語り始めるのです。(編者あとがきより)

名詩「学校」「春の問題」「船出」などを遺しての夭逝が惜しまれます。


また春になってしまった
これが何回目の春であるのか
ぼくにはわからない
人類出現前の春もまた
春だったのだろうか
(...)
髯や鬚の
原始時代の
原始人よ
不安や
いろんな種類の
おっかなさに
よくぞ耐えてこんにちまで
生きてきたなと誉めてやりたいが
きみは
すなわちぼくで
ぼくはきみなので
自画自賛はつつしみたい
           (「春の問題」)
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